歌手の橋幸夫さんが、80歳の誕生日である2023年5月3日をもって歌手を引退することを発表しました。加齢による声帯の筋肉の衰えで「歌の馬力や声帯を維持することが難しくなったと実感し、それを隠したりごまかしたりするのは、自分の性格ではできない」と引退の理由を説明しました。
1960年(昭和35年)7月5日にシングル「潮来笠」でデビューしてから62年余りの長い歌手活動のわりには、最近の歌番組での橋さんの歌声を聴いても、それほど衰えを感じませんでした。いつも飄々と楽に歌っているイメージは変わらない感じです。
橋さんが最近の歌番組で、往年のヒット曲を次々と歌われている中で、気になった1曲が「恋のメキシカン・ロック」という曲でした。この作品は1967年(昭和42年)5月1日に橋さんの89枚目のシングルとして発売されました。作詞は佐伯孝夫さん、作曲は吉田正さんです。
佐伯さんと吉田さんはコンビを組んで、フランク永井さんの「有楽町で逢いましょう」や、フランク永井さんと松尾和子さんの「東京ナイトクラブ」などのムード歌謡を大ヒットさせましたが、橋さんにとって佐伯さんと吉田さんは様々な作品を作った恩師でした。日本レコード大賞新人賞を受賞した「潮来笠」では股旅歌謡を作り、吉永小百合さんとのデュエットで日本レコード大賞を受賞した「いつでも夢を」では青春歌謡を作り、1964年に初めてエレキサウンドを導入した「恋をするなら」ではリズム歌謡を確立して、同年日本レコード大賞企画賞を受賞しました。「恋のメキシカン・ロック」はリズム歌謡の集大成のような作品でした。
メキシカン・ロックは造語で、1968年にメキシコオリンピックが開催されることを見越してのことでした。ぼくはこの曲を知ったのは橋さんの歌ではなくて、清水アキラさんのものまねでした。
何で水着に浮き輪を持ってものまねしようと思ったのかは、海とか太陽のイメージがあったのかなと想像しますけど、ものまねのレパートリーに使おうと思うほど、楽曲の魅力があったんだと思います。楽しくなるようなリズム感は今聴いても色褪せていないと思いますし、ちょっとバカバカしさを感じる歌詞もウキウキさせてくれるところが、歌の高揚感を醸し出しているのだと思います。
今の演歌男子の歌手の方たちが橋さんのリズム歌謡にチャレンジして歌っていますけど、音程は合っているけど、硬さがある方が多いと思います。橋さんの魅力は飄々に表されるようなしなやかさにあると思います。もっとはっちゃけるというか、吹っ切れた楽しさが、今の歌にもものまねにも欲しいところです。