日本の歌謡史を振り返ると、ターニング・ポイントとなった年が何回かありますが、その1つは1978年(昭和53年)であったと思います。日本レコード大賞はピンク・レディーの「UFO」が受賞し、アイドル歌手が初めて受賞しました。NHK紅白歌合戦のトリは、紅組は当時19才の山口百恵さんが抜擢され「プレイバックPART2」を歌唱、白組は沢田研二さんが「LOVE(抱きしめたい)」で初の大トリを務めました。従来、演歌歌手が務めていた紅白のトリを、アイドル歌手である百恵さんと、歌謡曲のスターであったジュリーが務めるのは、ある意味歴史的な大変革でもありました。また、ニューミュージックが社会的に浸透してきたことを受け、この年の紅白では、紅組から庄野真代さん、サーカス、渡辺真知子さんの3組、白組からツイスト、さとう宗幸さん、原田真二さんの3組、計6組が初出場となり、当時の演歌不振を埋める形で、新しい音楽の波が寄せてくるようになりました。この年の日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞したのが、「かもめが翔んだ日」を歌唱した渡辺真知子さんでした。
渡辺さんは高校生の頃からヤマハポピュラーソングコンテスト(通称「ポプコン」)に参加したり、ソロとしての音楽活動を始めていたようですが、1977年11月1日に「迷い道」でデビューし、ベスト10入りする大ヒットとなりました。これに次いで2枚目のシングルとして1978年4月21日に発売されたのが、「かもめが翔んだ日」でした。作詞は伊藤アキラさん、作曲は渡辺さん、編曲は船山基紀さんです。冒頭のイントロの「ハーバーライトが朝日に変る その時一羽のかもめが翔んだ」は、作品の原案ではなくて、後から追加されて作ったものだそうです。このイントロ部分が強烈な印象が残っているだけに、ここがあるとないとでは大違いだったかもしれません。この曲を聴くたびに、海とか潮の香りが感じられるというか、それはきっと渡辺さんの出身地である横須賀や三浦の海かもしれないと想像しますけど、渡辺さんのパワフルな歌唱力と、ドラマチックなメロディーが盛り上がる歌だなあと思いました。編曲の船山さんが歌謡曲的なアレンジを加えたのも、ニューミュージックが親しみやすく受け入れられた要因の1つであったと思います。また、当時はニューミュージックのアーティストはテレビへの出演を事実上拒否していましたが、渡辺さんはテレビにどんどん出演をするタイプだったというのも、ニューミュージックがお茶の間に近づいた要因ではないかと思います。1978年の大ヒット以降も、渡辺さんのパワフルな歌唱力は今なお維持されているのもすごいことです。名曲はいつまでも色あせないと思わせてくれる1曲です。