オンラインのカラオケ大会で、女性アイドルになりきって歌った動画で競うという企画がありました。主催者からは女性アイドルの例ということで松田聖子さん、中森明菜さん、浜崎あゆみさんを挙げていました。
日本の歌謡史の中でも多くの女性アイドル歌手が活躍していたのは、1980年から1985年にかけてだったと思いますし、そのきっかけを作ったのは1980年デビューの人たちでした。
男性は田原俊彦さんでしたが、女性は松田聖子さん、河合奈保子さん、柏原芳恵さんが活躍して、この4人はデビュー2年目の1981年に日本レコード大賞が新設したゴールデン・アイドル賞を受賞しました。岩崎良美さん、松村和子さん、三原順子さんもヒット曲を出して、その後NHK紅白歌合戦に初出場を果たしました。
賞レースが華やかであった当時、レコード大賞をはじめ各音楽祭の新人賞は通常5組でしたが、1980年は新人の活躍と競争が熾烈であったため、受賞を7組に増やした音楽祭もありました。その中で7番目に選ばれていた印象が強かったのが、石坂智子さんという女性アイドル歌手でした。
石坂さんは1979年の東芝タレントスカウトキャラバンで優勝し、1980年6月21日にシングル「ありがとう」でデビューしました。田原さんが主演だったテレビドラマ「ただいま放課後」の主題歌にもなってヒットはしましたが、田原さん、松田さん、岩崎さんに加え、香取洋子さんも活躍して、あまり目立つ状況ではありませんでした。それで、1枚目の「ありがとう」とは全く違う路線で、1980年9月21日に発売された2枚目のシングルが「デジタル・ナイト・ララバイ」という曲でした。目指したのは、山口百恵さんが歌っていた阿木燿子さん・宇崎竜童さんが作っていた大人のちょっと突っ張った女性の雰囲気だろうと思いましたし、子供の頃見た時も「この人随分変わったなあ」というのがわかりました。「ありがとう」も「デジタル・ナイト・ララバイ」も、作詞・作曲は伊藤薫さん、編曲は大村雅朗さんで、これほど対照的な作品を同じ歌手に対して作れたなあと思いましたし、そういう求めに対して、当時17才だった石坂さんがそのことを理解して、ステージでその作品のイメージを出して歌っていたんだなあと、今動画を見て振り返ってそう感じました。
イメージチェンジが功を奏したのか、「日本テレビ音楽祭」では新人賞候補7人に選ばれ、「あなたが選ぶ全日本歌謡音楽祭」でも新人奨励賞7人に選ばれ、「FNS歌謡祭」では新人賞6人に選ばれ、「日本歌謡大賞」では放送音楽新人賞候補7人に選ばれました。ぼくの記憶以上に受賞をしていました。
石坂さんは1981年8月に5枚目のシングル「北国へ」を最後に芸能界を引退しました。歌手を目指してデビューしたのに、2年弱で引退した心境はわかりませんけど、特にファンでも何でもなかったぼくでも、すごく頑張っていた印象が今でも強く残っています。
最初の話題に出していた、女性アイドルになりきって歌う動画も、歌が好きな人たちがやるわけですから、石坂さんのような、メジャーではない歌手をテーマにした動画も出して欲しいなあと思います。
何で石坂さんのことを思い出したのかなって。ぼくは歌はやめませんけど、今の自分の立ち位置とか、努力している姿勢に、どこか親近感を覚えたのかもしれません。
【HD】 石坂智子/デジタル・ナイト・ララバイ (1980年)