ぼくは、club DAMの歌唱検定を受けてプロの先生から講評をいただいた中で、「語るように歌ってみて」というのがあって、それはどういうふうにやったらいいのかとYoutubeで歌手の映像を見ている中で、すごく参考にしているのがちあきなおみさんです。「紅とんぼ」は1988年(昭和63年)に発表された作品で、今日で新宿駅裏の小さな酒場を店仕舞いする女性と、なじみのお客さんとの会話の一コマを描いています。
ちあきさんの凄さは歌の表現力にあると思いますが、「空(から)にしてって 酒も肴も」と歌い始めると、たちまち聴いているぼくも「紅とんぼ」の世界に引き込まれてしまいます。「五年ありがとう 楽しかったわ いろいろお世話になりました」と続けて歌うちあきさんは、まるでセリフを言うように、でも音程や節回しはしっかりと回して、それで感情もこめてるから、芝居のようになってくるんですよね。「しんみり しないでよ…ケンさん」ってさらに続くんですが、まるで高倉健さんを思い起こしてしまいますが、「紅とんぼ」の最後の日にやってきた常連さんの顔がいくつも想像できてしまう、そんな風にして歌の世界がどんどん広げられていくのは、ちあきさんの歌の力であり、そんなちあきさんをよくわかっている、作詞家の吉田旺さんと作曲家の船村徹さんの作品づくりのレベルの高さにあるのだと思います。
この「紅とんぼ」の女性は、店を閉めて、故里(くに)へ帰ります。「みんなありがとう うれしかったわ あふれてきちゃった 想い出が」というところでは、ちあきさんは感極まった心情で涙声を作りながらも、朗々と歌うところはしっかりと歌っているのです。この作品は1番から3番までの最後のフレーズは、「新宿駅裏 紅とんぼ 想い出してね…時々は」で締めるんですが、1番、2番、3番とすべて歌い方を変えているんです。ぼくも結構歌ってて注意を受けたところで、「同じ歌詞は、同じように歌わず、情景によって変えてみて」って言われました。
ちあきなおみさんの凄さはyoutubeで色々な歌を聴く中で、最近になってわかってきました。これがプロといえる歌手の領域なんだなと改めて毎回感じています。