お盆休みで故郷に帰省された方も、今日までにはご自宅に戻られたのではないでしょうか。故郷(ふるさと)を歌った曲も数多くありますが、Youtubeで見ていい歌だなと思ったのが、由紀さおりさんの「故郷」という歌でした。
由紀さおりさん・安田祥子さんはステージで童謡の「ふるさと」を歌われていますが、この作品は歌謡曲の歌手としての由紀さんの作品で、1972年7月1日に由紀さんの13枚目のシングルとして発売されました。作詞は山川啓介さん、作曲と編曲は大野雄二さんが作られました。由紀さんは4回目の出場となった1972年の紅白歌合戦でこの作品を歌唱されましたが、伸びやかで情感の入った由紀さんの表現力が、「金色の風が吹く 山かげのあの村」や「夕空に雁が鳴き 葉が落ちるあの村」という故郷の情景を想像させてくれるように感じました。
当時は、「ディスカバー・ジャパン」が流行し、小柳ルミ子さんの「瀬戸の花嫁」はその代表例かと思いますが、この「故郷」は、単純な望郷の歌ではなく、そこに男女の恋模様を織り交ぜたものとなっています。「二度と会えないあなた いつかは私をなつかしむかしら ああ そんな時はひとりで 私のふるさと たずねてほしいの」や「明日は汚れた涙 流して生きてく私たちだけど ああ それが辛くなったら 私のふるさと たずねてほしいの」には、都会で出会い、愛する中で無垢な心が日々の中で汚れていき、これ以上愛せなくなった彼と彼女がそこにいたんでしょうね。別れることになった彼に、いつかまた私を思ったら、私のふるさとをたずねてほしいという彼女の言葉はどこかに凄みを感じます。そして、たずねてくれた私のふるさとには、「声あげて丘へかけてく15の私」や「愛という言葉の意味も知らない私」がいるというんですね。
大野さんの楽曲は、アメリカン・ポップスらしさをベースにしながらも、どこか儚げな旋律を混ぜて、日本的なポップスに仕上げていると思います。こういうのはジャズで培った大野先生の音感なんだろうと思います。そこに山川さんのある意味とんでもないシチュエーションの歌詞が入るわけですが、彼が彼女の故郷に帰れば、彼女が出会った頃の彼の心を思い出してくれるだろうと想像したように、生きていくなかで段々と身に付けてきた飾りを取っ払って、素に戻れる場所も故郷なんだろうなと思うと、なかなか深い歌詞です。大野先生も山川先生も一捻りも二捻りもして作っているわけですが、そういう作品を由紀さんは「酔い覚ましの清涼剤」と評された歌唱力で難なくまとめてしまっています。セールス的には売れなかった作品でしたが、芸術的には高い作品だと思います。作詞家、作曲家、歌手がそれぞれの思いを主張して、化学反応を起こしている好例なのかなと。DAM★とものユーザーさんたちは、その歌手のそれほど売れなかった曲にも着目して、歌って公開しているものが数多くあります。掘り出し物の歌を探し当てていくのも、カラオケユーザーの役目なのかなと思います。