歌の世界って不思議なもので、ある時は若さ溢れるパワーとか才能とかが圧倒するかと思えば、熟練した風合いに卓越さを感じる時もあって、実は年齢が関係ない世界なのかなと思います。
演歌や歌謡曲も、一般的には古臭いと片付けられがちですけれど、楽曲って新しいか古いかというよりは、どのジャンルでも年月を超えていく訴求力があるかどうかなのかなって思ったりします。
2024年も半分が終わろうとした時に、天童よしみさんが歌っている「昭和かたぎ」という演歌の楽曲に出会いました。何度も聴いていくうちに、昭和に生まれ人生を歩んできた夫婦の姿が目に浮かんできました。
街を散歩している時にも、高齢者のご夫婦の姿をお見かけすることがあります。若々しい格好で楽しそうに会話をしているご夫婦。車椅子に座っている病気をされているご主人を、小さな体で懸命に押して、優しく話しかけているご婦人。交差点でお互いに手を握りながらゆっくりと横断歩道を歩いていくご夫婦。
歌は元々、人々の心の叫びから生まれてきたものだと思いますし、人生を語るのが歌なんだろうなと思います。各コーラスの終わりの歌詞が「離れずに 離さずに 生きるのよ」という言葉なんですが、ぼくがみている夫婦の光景とやけにマッチしました。
天童よしみさんが歌唱力の極めて高い歌手の方であることはもちろん存じていましたが、「珍島物語」や「道頓堀人情」を聴いたときとはまた違う、円熟味のある納得さを「昭和かたぎ」の歌唱に強く感じました。
歌の上手さを目指すなら、試してみようと、DAM★ともで「昭和かたぎ」を試してみました。声を張り上げて歌う楽曲ではないのが、数回歌ってみて感じました。そして、歌詞の言葉が少ないからこそ、言葉に込めるメリハリさとか、意味の伝え方とか、音程もずらせないし、声色の使い方も違えちゃいけないなと思いました。
ぼくが一番いいなと思った歌詞が、3番の「私にだって 意地がある やっぱり昭和の女です」というところでした。その昔は「明治一代女」という曲がありましたが、今の日本は平成を経て令和になっても、色濃くあるのは昭和なんですよね。こういう気持ちは人間が円熟を重ねた年頃になったら、いつの時代の人も感じてきたことなんだろうなって思います。
夫婦に限らず、親子でも、恋人同士でも、手を携えていたり、抱き合ったりしているシーンって、ぼくは割といいなって思うことが多いです。そのシーンにはその方たちの中にある愛を感じるし、絆も感じるし、人と人のぬくもりみたいなものが見えてくるからなのかもしれません。
そういう人の心を歌で伝えようとするには、ぼくには人生の年輪がまだまだ足りないのかもしれないですけど、それでも今わかる思いで伝えきれたら、もっといい歌が歌えるんだろうなと思います。歌の道は人生の道と同じで奥が深いものです。