DAM★とも&アウフヘーベン

DAM★ともで公開した曲について感じたことを書いていきます。

冬の旅

昭和の流行歌は、今もなお日本のポップス・ロック・演歌・歌謡曲のバックボーンであり続けていると思います。平成の時代にも多くのヒット曲が生まれ、音楽の表現方法も広がったと思います。ただ、音楽が洗練されたにもかかわらず、何か物足りなさを感じることがあり、それは何なんだろうかと考えていたら、その1つはストレートに魂を揺さぶる歌手が少なくなったのかなと感じました。日本の歌謡界の中でトップレベルのソウル・シンガーだと思うのが森進一さんです。若い世代の方には、ONE OK ROCKのTaka(森内貴寛)さんのお父さんといった方がわかりやすいかもしれません。

NHK紅白歌合戦に1968年から2015年まで48回連続出場をしており、演歌歌手の大御所であることに異論はありませんけど、森さん自身は演歌歌手と呼ばれるのは好きではなく、「自分は流行歌手である」と言っています。事実、いわゆる演歌のヒット曲だけではなく、1974年に吉田拓郎さんが作曲を提供した「襟裳岬」は同年の日本レコード大賞を受賞しましたし、1982年に松本隆さんが作詞を、大瀧詠一さんが作曲を提供した「冬のリヴィエラ」もヒットし、ポップスそのものなんですけど、見事におしゃれな作品に仕上げているのは、森さんの歌唱力の技巧の高さにあるのだと思います。

森さんのシャウト歌唱って、演歌じゃなくて、ロックだと思うんです。歌が本当に上手い方は、レコードやCDよりも生歌の方が歌に魂が宿っていると感じます。特に初期の森さんがレコード大賞や紅白で歌うとなると、通常以上に迫力ある歌唱に切り替えてくるんです。YouTubeで当時の動画を見ると、憑依を半ば超えて狂信の世界に敢えて入って歌っている感じさえします。この人の息子さんのTakaさん、歌上手いの当たり前だよねって思います。

ぼくが最近聴いていて、DAM★ともでもチャレンジしているのは「冬の旅」という曲です。作詞は阿久悠さん、作曲は猪俣公章さん、編曲は森岡賢一郎さんです。1973年10月10日に森さんの28枚目のシングルとして発売されました。オリコンでは最高3位、1974年度の年間23位に入る大ヒット曲なんですが、他の有名すぎる大ヒット曲の影に隠れています。森さんがサビの「もうあなたのところへは 帰らないだろう」のところで、デビュー以来初めて手の振り付けを入れた曲でもあります。AメローBメロが語るように歌っているのに対し、サビはシャウトしまくった後に、締めは「雪の降る町へ」と再び静かに歌い締めるという、森進一節を堪能できる1曲であると思います。

森進一さんは歌手の最高峰の人という思いが強くて、その森さんの作品をカラオケで歌うのは、世代的に合わないこともあって敬遠してきました。でも「冬の旅」を歌ってみると、森さんのソウルが感じられますし、それとやっぱり歌って難しいです。サビの後半の「ひとり ひとり 旅にたつ」まで声を維持するのが難しいです。

冬の旅はNHK紅白歌合戦では1973年と1998年の2回歌唱されました。1973年の森さんはまだ荒削りながらも、迫力ある歌唱を披露しています。なんと当時26才でこんなに上手い歌が歌えるなんて凄いです。1998年の森さんは歌唱力もテクニックも最盛期にある頃で、歌の迫力も一段と増しています。平成の終わりに昭和の歌もしっくりきます。


冬の旅 森進一 Mori Shin ichi