1980年代は多くのアイドル歌手が活躍した時代で、その先鞭をきったのが1980年デビュー組でした。田原俊彦さんはその後のジャニーズ事務所の隆盛のパイオニアとなりましたし、松田聖子さんは、後に続く女性アイドル歌手の目標となっていきました。その2人に次ぐ存在だったのが河合奈保子さんでした。今になってYoutubeで奈保子さんの動画を見ていると、当時見ていた時の印象とは違って、優れた歌唱力と表現力を持っていたんだなあと思います。
「Invitation」という曲は、1982年12月1日に彼女の11枚目のシングルとして発売されました。1980年に「大きな森の小さなお家」でデビューして、「スマイル・フォー・ミー」や「夏のヒロイン」のヒット曲を出して、アイドル歌手としての人気を高めた河合さんが、アーティスト路線の曲をということで竹内まりやさんに作品を依頼し、1982年9月に「けんかをやめて」を発売し、「Invitation」はそれに続く竹内まりやさんの作詞・作曲の作品でした。竹内さんはテレビで「スマイル・フォー・ミー」を歌う河合さんを見て、「彼女はアイドルの曲じゃない、しっとりした曲も歌えるだろう」と思い、「けんかをやめて」の原曲を作っていたところ、河合さん側から作品提供の依頼があり、まさに相思相愛だったようです。「奈保子ちゃんは女の子の揺れる心を素直に歌えるけど、私が歌うとちょっとあざとい女になってしまう」と竹内さんは「けんかをやめて」のセルフカバーについて、半ば自虐的に語っていましたが、奈保子さんの歌唱法は素直に気持ちを伝えていく歌い方で、無理がないんですね。筒美京平さんは竹内さんに「今度の「けんかをやめて」はいい曲だよね」と感想を言われたそうですが、竹内さんが元々描いていた河合さんへのイメージと、河合さんがそのテーマを上手くこなしたのが作品として昇華されたのかなと思います。そして、「Invitation」はとても竹内まりやさんがセルフカバーできない、河合奈保子さんの歌の世界を一歩深めた作品だろうと思います。まだ恋をしたばかりの男子と女子のハニカミな姿を描いています。「Invitation」は男の子が「招いた人はまだ私だけだと はにかむようなまなざしで 打ち明けられた」という歌詞に出てきます。ある意味河合さんは当時、純真なアイドル歌手を演じられていたわけで、そういう彼女から着想された作品だったなあと思います。編曲は大村雅朗さんが作られましたが、サウンドは平板なんですけど、アレンジをオーソドックスに盛り上げているのが、結果としてキラキラとした作品になったという印象です。他の曲を聴いても思いますが、河合奈保子さんは難しい曲もさらっと歌ってしまっていたんだなと思います。それゆえに目立たなかったのかもしれないと思うと、惜しいなあと思います。