DAM★とも&アウフヘーベン

DAM★ともで公開した曲について感じたことを書いていきます。

初恋

過去の大ヒット曲を、オリジナルの歌手とはまた違った歌い方で、他の歌手がカバーしていることがありますが、作品とカバーした歌手の歌の波長が合ったりすると、その作品がまた息を吹き返すようなものを感じますし、カバーした歌手に対してもその方の新たな魅力を見せていただいたように感じます。演歌歌手の松原健之さんが、たぶん当時のNHK歌謡コンサートだったと思いますが、村下孝蔵さんの大ヒット曲「初恋」を歌ったときも、そういうものを感じました。

村下孝蔵さんは1979年にCBSソニーのオーディションを受け、グランプリを獲得したものの、当時はシティポップス系のアーティストを売り出そうという空気が強く、フォーク系で25才を過ぎていた村下さんのデビューには難色を示す議論もあったそうです。しかし、村下さんの楽曲や声の良さを認める須藤晃さんが「売れるのは村下だ」と押し、彼を見いだした広島の中国放送のバックアップもあり、1980年、村下さんは27才の時に「月あかり」でデビューしました。テレビにはほとんど出演せず、広島でのライブ活動を主体にしていましたが、1983年に5枚目のシングルとして発売したのが「初恋」でした。原曲はバラード仕立てだったそうですが、編曲家の水谷公生さんがポップなアレンジを試み、村下さんも了解したため、この作品ができたということです。その後、プロデュースを務めた須藤晃さんも「フォークにこだわらなくてもいいだろう」と村下さんに進言し、それを受け入れた村下さんを「心の大きな方で、人に委ねられる強さがあった」と水谷さんは振り返っています。だから、村下さんの「初恋」には、村下さんの中低音の強くて包容力のある声が、歌詞の言葉の一つ一つを伝えてくれる感じで、それは村下さんが地道に歌手活動を続けている生き方も伝えてくれているようでした。でも、じめっと重いということは全くなくて、適度な心地よさを保たれているように感じました。

松原さんは村下さんの歌い方とは違って、透明感のある高音を活かした、爽やかな歌声で、「初恋」の歌詞の世界を伝えてくれている感じがします。ぼくも松原さんが歌っている演歌の作品には興味はありませんが、むしろ松原さんには演歌にとどまることなく、ポップスもロックも歌いこなせる歌手なのではないかという新たな可能性をそのとき感じました。その後、松原さんがデビュー曲のカップリングで収録した「もし翼があったなら」を聴いて、そういう印象は間違っていなかったのだなという思いをぼくは持っています。ジャンルにとらわれず、何でも歌ってこそ、歌手自身も大きく成長すると思うんですよね。

村下さんの「初恋」、松原さんの「初恋」、どちらも魅力がある歌だと思います。


村下孝蔵 - 初恋


松原健之~初恋~