DAM★とも&アウフヘーベン

DAM★ともで公開した曲について感じたことを書いていきます。

シルエット・ロマンス

前回、秋元順子さんの「愛のままで…」を紹介したときに、似ているとよく書かれるのが大橋純子さんの「シルエット・ロマンス」ですが、ぼくは似て非なるものだと思うと書きましたので、今回は「シルエット・ロマンス」を紹介します。

女性向けの恋愛小説が一定に人気があった当時、サンリオがアメリカのシルエット社と契約し、1981年9月に「シルエット・ロマンス」というレーベルを立ち上げることになり、そのイメージソングとして作られたのが「シルエット・ロマンス」でした。作詞は来生えつこさん、作曲は来生たかおさんというニューミュージックを代表する黄金コンビの姉弟です。この作品を歌うのが大橋純子さんということは決まっていたこともあり、来生たかおさんは大橋さんの歌唱力を見込んで、サビの部分を結構難しいメロディーラインにすることができたので、「これは売れる」と確信したそうです。一方、来生えつこさんは、自分の歌詞に過度な情感を込めてほしくなかったという思いがあったので、レコードの録音に使用したのは大橋さんがまだ歌い慣れ始めるあたりのテイクだったそうです。ただ、これはちょっと無理な注文だと思いますし、大橋さんが「シルエット・ロマンス」を歌いあげてしまうのは間違いなかったわけですから。また、大橋さん自身は当時歌手の休業を考えていたので、自分を忘れて欲しくないため、「絶対にヒットさせよう」と思ったそうです。本当に三者三様の思いがあったわけです。

1981年11月5日に大橋さんのシングルとして発売した直後は売れませんでしたが、1982年に入ってからチャートが上昇していき、5月にはベスト10入りしました。1982年のオリコン年間18位となり、同年の日本レコード大賞最優秀歌唱賞をニューミュージックの歌手として初めて受賞しました。大橋さんはこの当時は北島三郎さんの北島音楽事務所に所属していましたが、なぜかこの年の紅白歌合戦に選ばれなかったのかは今でも疑問です。

さて、来生姉弟の作風は、都会的であるけど派手さはなくて、どこか落ち着きのあるメロウな感じがします。来生えつこさんの書く歌詞は、情景が具体的に現われていて、きれいな言葉を使っています。「恋する女は 夢見たがりの いつもヒロイン つかの間の」とここは小説レーベルの宣伝に気を使いつつも、恋愛小説を読みたい女心を言い当てています。「鏡に向かって アイペンシルの 色を並べて 迷うだけ 窓辺の憂い顔は 装う女心 茜色のシルエット」は、男には永遠にわからない女性の微妙な揺れ動く心なんでしょうね。愛する男性と会う前の午後4時ぐらいの景色が「茜色のシルエット」なのかな。「ああ あなたに 恋心盗まれて もっとロマンス 私に仕掛けてきて ああ あなたに 恋模様染められて もっとロマンス ときめきを止めないで」でサビを締めくくると、歌詞としては完璧な仕上がりじゃないかと思います。

大橋さんは持ち前の歌唱力で、この作品を歌い上げますが、来生たかおさんは、いつもそうなんですが、淡々ともさっとした感じで歌いながらも、じわじわと情感が伝わってくる歌い方で、実に対照的なんですが、1つの作品には色々なアプローチがあることを教えてくれます。

この数年後、来生たかおさんはポール・モーリアのプロデュースでアルバムを制作します。ポール・モーリアはそれまで日本人からのプロデュースのオファーは断っていたそうですが、来生さんの作曲について「一見シンプルだが、人の耳を惹きつける、明快でロマンティックな音楽を創っている」と評し、「フランスにはなく、日本らしさを持っている」と、自分の編曲との波長が合うと感じられたそうです。今から思うと、来生さんの作品は、日本のポピュラーとしてスタンダード・ナンバーになっている作品が多いです。「シルエット・ロマンス」も今では多くのアーティストがカバーしています。


大橋純子 - シルエット・ロマンス


来生たかお - シルエット ロマンス


Paul Mauriat & Orchestra - Silhouette Romance w Takao Kisugi (Live, 1984)