現在の日本の歌謡界で、高い歌唱力を持った男性ボーカリストというと、ぼくは布施明さんを挙げたいと思います。年齢を感じさせないパワフルなボイスと、時には激しく、時には包み込むような歌の表現力は、後輩の歌手たちが見習うべきことが多々あると思います。
そんな布施さんも若い頃はアイドル歌手のような扱いをされていました。1973年(昭和48年)の紅白歌合戦で、布施さんは7回目の出場でしたが、白組のトップバッターとして「甘い十字架」(作詞は安井かずみさん、作曲は加瀬邦彦さん、編曲は馬飼野康二さん。)を歌われました。当時の持ち時間は2分弱で、男性歌手が歌いながら何かをすること自体に抵抗感があった当時に、布施さんは衣装の早替えとか、紅白で何かと試していた頃でした。今から見るとまだ初々しさが残っています。布施さんのアイドル時代はこの年あたりで終わります。昭和49年には「積木の部屋」がヒットし、昭和50年には「シクラメンのかほり」で日本レコード大賞を受賞し、一気に歌唱力のあるアーティストとしての道に入っていくことになります。