12月となると忠臣蔵を思い起こす時期となりますが、12月14日が近づくと、ぼくは三波春夫先生の「俵星玄蕃」を思い起こすようになって10数年となりました。この曲の正式名称は「長編歌謡浪曲 元禄名槍譜 俵星玄蕃」です。
子供の頃、紅白歌合戦で見ていた三波先生は、「チャンチキおけさ」とか「おまんた囃子」とか、ステージに花柳糸之社中を従えて、派手な衣装に甲高い声で面白く歌っているおじさんの歌手ぐらいにしか思ってませんでした。
1999年の紅白歌合戦に三波先生は10年ぶりに出場することとなり、1964年の紅白大トリ以来の「俵星玄蕃」を歌うことになりました。御年76の身で、パフォーマンスができるのか、作品に対して無知ながらも半信半疑でした。ステージが始まりました。往年のパワーは勿論ありませんでしたが、それをカバーするかの如く、人情の機微を見事に表現し尽くした、まさに至芸の業でありました。ステージが終わって、三波先生が大きく息を吹く所作をされて、一仕事終えたという思いが滲んでおられました。
ぼくはこのステージに感動して、中古CDで「三波春夫ベスト盤」を買って、「俵星玄蕃」をはじめ、三波先生が北村桃児のペンネームで作詞をされた歌謡浪曲の数々の作品を聴いて、こういう音楽が何十年も前に作られていたことに感銘を受けました。一人ミュージカルといいますか、日本版オペラといいますか、曲の構成は当時の大家である長津義司先生と打ち合わせをされたんでしょうが、作詞も歴史背景を織り込みつつも、ちょっと面白く軽妙な場面も併せ持って、脚本としてはとても優れたものであると思いました。
折りしも 一人の浪士が 雪を蹴立てて サクッ サクッ
サク、サク、サク、サク、
「先生っ!」 「おお、蕎麦屋かあ!」
昔のyoutubeを見ますと、ここで観客は拍手をするのですが、1999年の紅白の時は観客はスルーしまして、時の流れをふと感じた瞬間でもありました。
この曲、DAM★ともにも入ってまして、ぼくも歌ってみましたが、到底こなせるものではありませんでした。そして、三波先生のキーが物凄く高いキーで歌われていたことを認識しました。