DAM★とも&アウフヘーベン

DAM★ともで公開した曲について感じたことを書いていきます。

僕はここにいる

現代のポピュラー音楽は、日本でいう演歌・歌謡曲・ポップス・ロック・アニソンのいずれも、基本的には1つの作品として仕上げられたフィクションであると思っています。歌手は、作詞家・作曲家・編曲家が作った作品を歌で表現するわけですが、そこに作品が描く世界だけではなく、作品と共有できる自分の思いとか、自分の人生経験を投影してみると、歌の表現力に加えて、説得力が増すような気がします。

思えば、美空ひばりさんは、自分の歌手人生を歌の作品に投影させた作品がいくつかあり、「芸道一代」や「ひとすじの道」は、ひばりさんの人生のテーマソングのような感じさえしました。


芸道一代/美空ひばり


美空ひばり ひとすじの道 (ベスト)

時代は移り、シンガーソングライターが台頭するようになると、彼らは1人で作詞も作曲も、時には編曲も自らで行い、もちろん歌も歌うわけで、その歌のモチーフを作っていく中では、フィクションだけではなく、半ば私小説的に、自分の人生経験を材料にしていくことも多々あると思います。

ぼくが最近お気に入りのアーティストの林部智史さん。林部さんは歌手だけでなく、作詞も作曲もするシンガーソングライターですが、彼の作品の1つである「僕はここにいる」という曲を最近聴きました。その歌詞を読みながら、林部さんの歌声を聴いていると、彼が歌手になるまでに経験したいくつかの挫折のエピソードや、礼文島で「その声で歌手にならないのはもったいない」と背中を押された話や、オーディションを落ちまくって歌手になるのを諦めかけた話とかがオーバーラップしてくる感じがしました。そして、この作品は林部さんにとっては歌手としてのテーマソングなんだなと思いました。

この曲を聴くと涙が出てくるというコメントもいくつか読みました。林部さんはピアノで作曲をしているんだと思いますが、メロディーが職業作家とは違って素直な感じがしますし、歌詞も同様で創作的というよりは心情をそのまま書いている感じで、そういう平易さが聴いている人たちにはわかりやすく、伝わりやすいのかもしれないと思いました。「涙を流すことは 弱さを見せる強さ 今痛みを抱えて ここに生きてる」とか、「明日が見えなくても それでも明日に向かって 思い迷い悩んでも それでいい」とか、苦労した人だからこそ書いた歌詞だなって思います。人それぞれにいろいろな痛みや悩みを抱えている不安な世の中で、歌手である林部さんは「ここにいるから 僕は変わらずにこの声で 君に歌うよ ずっと届けるよ」と歌っています。


癒しの音楽…【 僕はここにいる】林部智史

歌手は、歌で人の心を癒すのが仕事なんだろうなと思います。だから、歌を聴いてくれる人がいて、歌手も成り立っているんですが、きっと日本の路上やインターネットでは、まだ見ぬ誰かに向かって、歌っているプロの歌手の方やアマチュアの歌い手の方がたくさんいるんだろうなって思います。そういうたくさんの歌声で、日本中が癒されたら、ギスギスした世の中の諸問題は起きないのかもしれませんが。

さて、上の「僕はここにいる」は、林部さんのファーストアルバムにも収録されていますが、デビューした後の環境や心境の変化を受けて、林部さんは同じ題名で歌詞もメロディーも違う「僕はここにいる」を作って、コンサートで披露しました。(通称は「僕はここにいる2」とか言われています)「僕はこれから色々と変わっていっても、皆さんへの思いは変わりません。皆さんのために歌っていきます」というメッセージがコンサートで林部さんからあったそうです。こういう歌のプレゼントって、面白いなと思いました。音源化はまだされていないそうです。


『僕はここにいる』~林部智史

ぼくはこの「僕はここにいる」は歌ったことがありません。聴く方としては癒されますけど、人生の痛みや苦しみを歌えるほどの深みを持っていないぼくとしては、こういう歌を歌うのはちょっと躊躇すると思います。