DAM★とも&アウフヘーベン

DAM★ともで公開した曲について感じたことを書いていきます。

魅せられて

日本の歌謡曲の中で、最も華麗でゴージャスな歌謡曲として挙げられるのは、ジュディ・オングさんの「魅せられて」ではないかと思います。

この作品は1979年2月25日にジュディさんの28枚目のシングルとして発売されました。作詞は阿木燿子さん、作曲と編曲は筒美京平さん、プロデュースはCBSソニーの音楽プロデューサーであった酒井政利さんが行いました。

「魅せられて」は総合的なプロジェクトの一環として生まれました。作家の池田真寿夫さんが小説「エーゲ海に捧ぐ」を発表し、芥川賞を受賞、間もなく映画化の話となり、配給元の東宝が映画のヒットを目指すに当たり「エーゲ海ブームを作れないか」と模索します。その中で下着メーカーのワコールが映画のシーンをCMに採用することとなります。併せてCMソングをということで作られたのが「魅せられて」でした。

作詞が先行して作られたようで、阿木さんは「エーゲ海に捧ぐ」の内容を意識してか、やや官能的でありながら、女は男を守る強く深い存在という母性愛のような内容を描きました。「Wind is blowing from the Aegean 女は海」というサビの歌詞に端的に表現されています。(the Aegean はエーゲ海です。長年Asianだと誤解していました。)

作曲に当たって、筒美さんはゴージャスなサウンドを念頭に置いて作曲と編曲をされたようです。その中で、おそらく意識したのは当時日本でも人気のあったポール・モーリアのサウンドであっただろうと思います。ポール・モーリアは1971年に「エーゲ海の真珠」を日本でヒットさせていました。


エーゲ海の真珠 ポール・モーリア Paul Mauriat Penelope

酒井さんが作詞に阿木さん、作曲に筒美さんを起用したのも上手かったですが、歌手にジュディ・オングさんを起用したというのが大当りでした。ジュディさんの声質が酒井さんは気に入っていたようですが、女性の心をやや舌足らずのような歌い方をして表現できる実力や、英語を流暢に発音できる語学力は、「魅せられて」の魅力を引き出すのには十分でした。

そして、何よりも印象的だったのが、ジュディさんの衣装でした。扇状に広がる白のドレスは、白いエーゲ海のイメージを連想させるだけでなく、まるでカーテンやシーツのようで、男女の恋を連想させるものであり、そして歌手の衣装がゴージャスになるきっかけを作ったのはこのドレスであったと思います。

1979年、「魅せられて」は日本レコード大賞を受賞し、ジュディさんは紅白歌合戦に初出場し、華麗なステージを披露しました。そして、この紅白歌合戦で同じく初出場したのが、デビュー以来苦節15年の末、「おもいで酒」が大ヒットした小林幸子さんでした。小林さんがその後、紅白出場を重ねていく中で次第に衣装に羽がつくようになり、歌いながら上空を飛ぶようになり、セットのようなゴージャスな衣装へと発展していった、その原点はジュディさんの白いドレスであったと思います。


ジュディ・オング ♪魅せられて